帷子「麻白地観世水錨葦に蝶舞文様」

帷子「麻白地観世水錨葦に蝶舞文様」(江戸後期)

極めて格式高く、歴史的価値も非常に高い至高の夏衣(帷子)です。上質な白麻の生地を舞台に、上半身をすっきりと見せ、腰から裾にかけて劇的な情景を描き出す「裾模様(腰替わり)」の見事な構成が目を引きます。

デザインには、涼やかな風を呼び起こすような「観世水」と、水辺にそよぐ「葦(アシ)」、そして波間にダイナミックに配された「船錨(ふないかり)」の意匠が生き生きと表現されています。その周囲を色彩豊かな「蝶」が舞い、細やかな金砂子のような刺繍が施されるなど、盛夏の水辺の情景を一枚の絵画のように昇華させた贅沢な構成です。

また、透け感のある白麻地に映える、葦の「緑」や「藍」、蝶にあしらわれた「紅」や「紫」といった色彩のコントラストが見事です。随所に効果的に使われた金糸の輝きが水面のきらめきを連想させ、背や両袖、両胸には徳川家の象徴である「三つ葉葵の御紋」が五つ紋として気高く据えられています。

卓越した刺繍職人の最高峰の技技と、徳川将軍家や御三家ゆかりの最高上流階級が纏った圧倒的な気品と美意識が、最高の状態で今に伝えられた博物館級の貴重な逸品です。